一般社団法人新潟県建築士事務所協会
一般社団法人新潟県建築士事務所協会

建築作品

 優れた建築作品を設計した新潟県内の建築士事務所を表彰することにより、建築士事務所の資質の向上に寄与することを目的としております。

令和2年度 第29回「建築作品・新潟県賞」

講 評

審査委員長 新潟大学名誉教授  
西 村 伸 也

 「建築作品・新潟県賞」は、優れた建築作品を設計した新潟県内の建築士事務所を表彰し、その設計技術を県内の建築士事務所で共有し、建築士事務所の資質の向上に寄与することを目的としています。今年度は、コロナの厳しい状況の中にもかかわらず、集まった多くの応募作品に対して、審査が令和3年1月22日午後1時半から行われた。審査委員は、西村伸也(新潟大学名誉教授)・地濃茂雄(新潟工科大学名誉教授)・高木実(一般財団法人にいがた住宅センター理事長)・坂本忠志(一般社団法人新潟県建築士事務所協会 会長)・江部健二(一般社団法人新潟県建築士事務所協会業務・技術副委員長)の5名で、住宅部門3件、一般建築部門5件、公共建築部門1件の合計9件の応募作品に対して、審査委員全員で図面と写真を含む応募書類を精読した上で、各自がそれぞれの作品に30点を上限とした評価点をつけていきました。全員の合計評価点を前に、各応募作品について活発な議論を重ねた上で最優秀賞と優秀賞を決定しました。本年度の応募作品はどれも質の高いものが集まっており、各委員は苦労しながら審査を行っていきました。
 以下のように今年度の最優秀賞・優秀賞を選定しました。
 最優秀賞・優秀賞に選ばれた3作品は、「社会福祉法人恩賜財団済生会支部 新潟県済生会 特別養護老人ホーム長和園」(株式会社 長建設計事務所)、「W×W×W」(株式会社 高田建築設計事務所)、「はじまりの間のある暮らし」(エヌ スケッチ)です。この3作品は、その独創的な建築提案と使われ方への細やかな対応とが巧みに計画されており、極めて高く評価されました。今年度応募された建築作品で選外となったものも、それぞれの状況の中で、建築空間を地域社会・文化・環境に適合させながら優れた提案を導いており、設計者・設計事務所の技術力がますます高くなっていることを実感しました。どの建築も、多くのアイディアと工夫とが建築に組み込まれていて、質の高い建築空間へと統合されている優れた建築作品でした。新潟の建築士事務所が新潟の人々に豊かさを与えられる創造的な空間を設計していただけることを期待しています。

さらに今年の日事連建築賞へ推薦する作品は、一般建築部門:「社会福祉法人恩賜財団済生会支部 新潟県済生会 特別養護老人ホーム長和園」(株式会社 長建設計事務所)、小規模建築部門:「W×W×W」(株式会社 高田建築設計事務所)の2作品となりました。

最優秀賞 社会福祉法人恩賜財団済生会支部 新潟県済生会
特別養護老人ホーム長和園
株式会社 長建設計事務所
優秀賞 W×W×W 株式会社 高田建築設計事務所
優秀賞 はじまりの間のある暮らし エヌ スケッチ

建築作品講評

最優秀賞

社会福祉法人恩賜財団済生会支部 新潟県済生会
特別養護老人ホーム長和園

株式会社 長建設計事務所

 既存施設を移転するために新築された特別養護老人ホームである。高齢者の生活スペースを2階から4階にすることで、1階に管理室を集中させている。これは、インフルエンザ対策として計画された工夫であったが、本年度のCOVID19のパンデミックに対応することが出来ているという大きな成果を得ている。また、ダブルコリドールの明快な平面型を採用しながら、その中に、光庭・団らんコーナー・食事とリハビリコーナーを配置して、高齢者の多様な生活行動が叶うように計画されている。さらに、4人の居住スペースがそれぞれ窓をもつように区分されている個室的4人室のデザインは、個人の生活がより豊に実現する仕組みとして優れたものである。ファサードには有孔鋼板とルーバーでつくられたテラスが日射を防ぎ、現代的な表情を創り上げているとともに、洪水と音への工夫・各所を区別するための色の工夫も加わって、これからの特別養護老人ホームの姿の一つを提案している。高齢者の生活に豊かさを与えてくれるきっかけを作る場として、極めて高く評価された。

優秀賞

W×W×W

株式会社 高田建築設計事務所

 精緻な矩形の構成を表情として見せながら、内部に様々な空間の重なりを実現した事務所建築である。事務を行う主要室を囲むようにワークスペースやミーティングスペースが配置された二重の空間構造をもち、その二つの空きに小さな緑と外につながる空間が組み込まれている。各所に置かれた窓は敷地から見える景色を巧みに切り取って、所員の憩いの空間を実現することに成功しており、落ち着いたファサードの中に有機的に広がる内と外の組み合わせが高く評価された。

優秀賞

はじまりの間のある暮らし

エヌ スケッチ

 縁側が室内化し、土間が外部に展開する空間構成を起点とした住宅である。作者はその内部化された縁側と土間を、「はじまりの間」と呼んで、そこからたくさんの生活が展開される住宅をみごとにつくりあげている。幅広い木の縁側が土間に続くこの空間は、子供の遊び場・休憩の場・近所付き合いの場にもなり、祈りの場としても計画されている。立体的に構築された空間の重なりの中に、この「はじまりの間」のデザインが力強く仕組まれた優れたデザインが高く評価された。